作家たちが残した、パリについての「断章」
パリを題材にした小説やエッセー、ノンフィクションなどから、パリについて思いをはせたり、パリでの暮らしだったり、主人公が感じたパリというもの、などなど・・。
図書館や書棚の奥から引っ張り出してきた名著の中から、心に残るフレーズを見つけました。
「パリの秘密 あとがき」鹿島茂 3
“Secrets of Paris” Shigeru kashima 3
パリは百年前、いや数百年前の建物やオブジェが平気で残っている。なのに、道行く人はそんなことに気づきもせずに前を通り過ぎていく。素晴らしい無関心。
だが、その無関心は、建物やオブジェを取り壊してしまおうという方向には向かわない。一度出来上がったものはそのままにしておこう、壊す理由がないのだから。
これぞ保守の精神。
こうした無関心と保守の精神があるから、ゲニウス・ロキはいつまでもその場所に居座り続けることができる。そしてこの居座り続けるゲニウス・ロキが多くの秘密を生む。ゲニウス・ロキ、がそこに住んだ人々の精神や感情と結びついて、不思議な混淆を成し、その混淆が有形・無形のオブジェとなって、後々まで残るのだ。
したがって、パリでは、どんな無名の通りのちっぽけな建物でも、かならず秘密がある、遊歩者(フラヌール)を惹きつけてやまないのである。
~鹿島茂「パリの秘密 あとがき」から
◆鹿島茂(Shigeru kashima 1949/昭和24 – )日本のフランス文学者。文芸評論家、翻訳家。19世紀フランス文学が専門。バルザック、ゾラ、ユーゴーら19世紀作家を題材にしたエッセイで知られる。1991年に 「馬車が買いたい!」でサントリー学芸賞受賞。19世紀フランスの希覯書を収集する古書マニアとしても有名。
パリ 1区、シテ島の東端の通り。シャントゥル通り。 ノートルダム大聖堂の尖塔を望む(2017年/焼失前)
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