作家たちが残した、パリについての「断章」
パリを題材にした小説やエッセー、ノンフィクションなどから、パリについて思いをはせたり、パリでの暮らしだったり、主人公が感じたパリというもの、などなど・・。
図書館や書棚の奥から引っ張り出してきた名著の中から、心に残るフレーズを見つけました。
「ふらんす物語」永井荷風
“Huransu Monogatari(French Story)” Kafū Nagai
巴里の女は、決して年を取らないというが、実際であると自分は思った。年のない女とはかかるものをいうのであろう。若い娘ではないと知っていながら、その襟元の美しさ、その肩の優しさ、玉のように爪を磨いた指先の細さに、男は万事を忘れてその方へ引付けられるように感ずるではないか。通過ぎる給仕入を呼んで、自分は女の望む飲物を命ずる。
朝日が早くも、ノートルダームの鐘楼に反射するのを見ながら、自分はとぼとぼとカルチヱーラタンの宿屋に帰った。窓の幕を引き、室中を暗くして、直様眠りに就こうとしたが、巴里にいるもこの日一日と思えば、とても安々寝付かれるものではない。リュキザンブルグの公園の森に勇しく嚇る夜明の小鳥の声、ソルポンの時計台の鐘の音が聞こえる。市場に行くらしい重い荷車の音が速くに響く。
~永井荷風「ふらんす物語」から
◆永井荷風(Kafū Nagai 1879/明治12 – 1959年/昭和34)
日本の小説家。1903年/明治36年から5年間アメリカやフランスに遊学し、その体験をもとに「あめりか物語』(1908)、「ふらんす物語」(1909)などを書き残した。
日本の小説家。1903年/明治36年から5年間アメリカやフランスに遊学し、その体験をもとに「あめりか物語』(1908)、「ふらんす物語」(1909)などを書き残した。
コメント