
個展のお知らせ2025年

個展のお知らせ
堀池典隆展「アジェとパリと、記憶の断章」
パリの街角には「その場所特有の雰囲気/ゲニウス・ロキ」があり、
それは時代とともに積層して、今もそこに存在し続けている。
◆会期
2025年 1月 18日(土)~ 2月 2日(日)
※火曜日、水曜日 休廊
※今後の作家在廊予定日 1/30、1/31、2/1、2/2
◆場所
ギャラリー芽楽
名古屋市名東区梅森坂 1-903(TEL 052-702-3870)
◆レセプションとミニライブを開催します。(終了しました)
初日 1月 18日(土)15時~
十弦響の皆さん(チェロと ギターとトイピアノなど)によるミニライブ。
パリにちなんだ曲などを披露していただきます。
◆ギャラリー芽楽
◆作家メッセージ
フランスの写真家、ウジェーヌ・アジェの写真の魅力は、何といってもパリ中心部で撮影された場所の多くが今も現存していて、その場所に立った時、アジェが撮影した時空に引き戻されていく感覚がたまらなくいい。アジェが撮影したパリの風景は当時すでに忘れ去られそうになり、消えていくかもしれない過去の風景だった。21世紀の私にとっては120年ほども前に撮影されたアジェの写真を通じてさらにその昔へとタイムスリップしていく感覚である。
それらの撮影場所は「その場所特有の雰囲気」が時代とともに積層し、今も新たな「ゲニウス・ロキ」を生み出し続けている。
アジェと同じ位置で撮影した私の写真を重ねた作品は、「アジェとパリと、記憶の断章」を再生していく。◆制作メモ
アジェは自身の写真を「記録」だと語った。
その時代のシュルレアリストたちは彼の写真に現実を超えた新たな現実を見出すがアジェ自身は彼らの考えに賛同することはなかった。アボットはアジェが亡くなる数年前から親交を重ね彼の「記録写真」の中に新たな読み解きの可能性を予見する。それは彼の写真家としての生涯の撮影対象の変化に写真の持つ「記憶性」を見出していたからではないか。
それは後の幾多の写真論においても「記録」と「記憶」の関係性が指摘されている。
文学においては、ノーベル文学賞作家のモディアノは「現在と過去は一体になっているが、
それはセロハンの膜のようなもので隔てられているだけなので、それがふつうに感じられ
るのだ」と著作「あなたがこの辺りで迷わないように」の文中に記している。
まさに写真の存在そのものを言い表しているように思う。
私の作品はアジェの撮影場所を訪れ同じ場所で撮影した写真を重ねて制作したもので、およそ120年の時間を経たその場所にアジェ以前から存在する「ゲニウス・ロキ」を見出し、新たな「記憶」を表現した。光学装置の結果として定着された写真画像は現在では物理データに変換されたものでしかない。そこに写る物事が存在した時から、アジェが撮影した時空まで、そして私が撮影した時空までのあらゆる痕跡が光、すなわち時間の影響を受けながらその場に存在し続ける。その痕跡にはおのずと強弱がうまれ五感だけでは覚知できないものとなるが、人は「記憶」と、事実としての「記録」によりそれを補っていく。
フランス国立図書館のウェブサイトであるガリカBnfのデータベースには、アジェの生涯
の撮影点数とほぼ同数のおよそ8,000点登録されている。このうちおよそ4,000枚がパリ
中心部の1区から7区で撮影したとされる。
これまでの撮影取材にあたっては、事前にこのデータベースと何冊かの写真集などを参考にしている。過去3回のパリ取材ではパリ市中心部の右岸の1区から4区と左岸の5区と6区の一部の地域のアジェの撮影ポイントおよそ200ヵ所を訪ねた。その多くは大島洋氏の著書で紹介されていて撮影場所が判明している場所だ。アジェ写真の魅力は何といってもパリ中心部で撮影された場所の多くが今も現存していて、
そこ立った時アジェが撮影した時空に引き戻されていく感覚がたまらなくいい。
アジェが撮影したパリの風景は当時すでに忘れ去られそうになり消えていくかもしれない
過去の風景だった。21世紀の私にとっては120年ほども前に撮影されたアジェの写真を通じてさらにその昔へとタイムスリップしていく感覚である。しかし私の作品は単にアジェの撮影ポイントの今と昔を比較することが目的ではない。アジェはなぜその場所を選んだのか。また「ゲニウス・ロキ」の手掛かりとなるその場所や通り、撮影対象になった建物にはどんないわれや歴史があったのか。おそらくアジェはそうした歴史的背景をパリ市歴史図書館などへの販売を通じて相当に認識していたのではないかと思う。
改めて私は彼の写真から何をどう読み解いていけばよいのか課題は増えるばかりである。※「ゲニウス・ロキ/Genius Loci」とは、ラテン語で「場所の精霊」を意味し、古代ローマの神話に由来する。現代的用法では、「土地の雰囲気」や「土地柄」を意味する。
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