作家たちが残した、パリについての「断章」
パリを題材にした小説やエッセー、ノンフィクションなどから、パリについて思いをはせたり、パリでの暮らしだったり、主人公が感じたパリというもの、などなど・・。
図書館や書棚の奥から引っ張り出してきた名著の中から、心に残るフレーズを見つけました。
「パリの秘密 手押し車にみる“歴史の底力”」鹿島茂 2
“Secrets of Paris” Shigeru kashima
パリの街を歩いていて、歴史の底力を感じるのは、じつをいえば、数世紀前の建物がそのまま残っていることではない。石の建物は木の建物に比べて、もともと残りやすいものだからである。歴史の底力、それはむしろ、変幻著しい日常的風俗の中にある。
たとえば、パリの街頭で見かける栗売りだ。この栗売りの使っている石焼きナベと木炭コンロ、それにコンロとナベを運ぶ手押し車。これらは、二十世紀初頭にアジェが写した写真の栗売りが使っている道具と寸分たがわない。それどころか、十八世紀末にカルル・ヴェルネの拙いた栗売りのそれとも変わっていない。~~鹿島茂「パリの秘密 手押し車にみる“歴史の底力”」から
◆鹿島茂(Shigeru kashima 1949/昭和24 – )日本のフランス文学者。文芸評論家、翻訳家。19世紀フランス文学が専門。バルザック、ゾラ、ユーゴーら19世紀作家を題材にしたエッセイで知られる。1991年に 「馬車が買いたい!」でサントリー学芸賞受賞。19世紀フランスの希覯書を収集する古書マニアとしても有名。
栗売り/Marchand de Marrons アジェ 1898年(Photo/BnF Gallica)
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