作家たちが残した、パリについての「断章」
パリを題材にした小説やエッセー、ノンフィクションなどから、パリについて思いをはせたり、パリでの暮らしだったり、主人公が感じたパリというもの、などなど・・。
図書館や書棚の奥から引っ張り出してきた名著の中から、心に残るフレーズを見つけました。
「パリの裏街」石井好子
“Pari no Uramachi(Back alley of Paris)” Yoshiko Ishii
キャフェ
旅人は見物の足を休ませるために キャフェに腰かける
老人は陽のあたる席で 一杯のコーヒをすすながら何時間も陽なたぼっこだ
学者はテーブル一杯に紙をならべてむずかしい顔をして書きものを むずかしい顔
をして書物をひもとく
パリのキャフェはそれが粗末な建物であっても暗いかげがない
キャフェのなかにいる人びとはのんびりと楽しそうにみえる
若い娘は恋人の肩にもたれ 頬をよせて夢みている
若い娘がひとりで坐っていたら彼女は恋人のくるのを待っているのだ
若い男は道をゆく人を眺めている
彼はさがしている~石井好子「パリの裏街」から
◆石井好子(Yoshiko Ishii 1922/大正11 – 2010/平成22)シャンソン歌手、エッセイスト。日本にシャンソン文化を根付かせたシャンソン界の第一人者。 1951年(昭和26年)パリへ渡り、シャンソンの名門店でデビュー。実力が認められ1953年からモンマルトルのキャバレー「ナチュリスト」のレビューの主役として1年間出演した。そのころの様子はエッセイ「女ひとりの巴里ぐらし」に詳しい。
「パリの裏街」は清川泰次との共著。1958年刊(700部限定)
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