作家たちが残した、パリについての「断章」
パリを題材にした小説やエッセー、ノンフィクションなどから、パリについて思いをはせたり、パリでの暮らしだったり、主人公が感じたパリというもの、などなど・・。
図書館や書棚の奥から引っ張り出してきた名著の中から、心に残るフレーズを見つけました。
「マレの街かど—パリ歴史散歩」アレックス・カーメル
“A Corner in Marais” Alex Karmel
およそ一万年前、セーヌ川は現在のサン=ルイ島の東端にあたる狭い乾いた土地を通り、小さな支流であるビエーヴル川の川床であった土地に流れこんでいた。その後、右岸の洪水が起きやすい平野を流れるようになる。この昔の川の跡は、今でも街なかで見ることができる。セーヌ川からバスティーュ広場にかけてのサン=マルタン運河を起点に、いくつもの大通りや通りを経て、アルマ広場まで続く一帯がそうだ。この洪水の多い土地の東部が乾燥すると、農業が行なわれるようになり、やがて家や道路もできた。それが、後に「沼地」を意味するマレと呼ばれるようになった土地である。このマレ地区が、破壊と激動の十九世紀に、時代に取り残された「澱み」となることによって破壊をまぬがれたことは、おもしろい偶然だと言えるかもしれない。
~アレックス・カーメル「マレの街かど—パリ歴史散歩」から
◆アレックス・カーメル(Alex Karmel 1931/昭和6 – 2015/平成27)アメリカニューヨーク生れれの執筆家。1949年の渡仏以来、度々長期滞在。1982年にパリに移住。パリ郊外の古都ドゥルダンで亡くなった。3冊の小説と2冊のノンフィクションを残した。
「マレの街かど—パリ歴史散歩 白水社 2000年刊」(原題/A Corner in Marais)
1740年のセーヌ川の氾濫被害を示した地図(Photo/BnF Gallica)
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